公明新聞の掲載から
どう防ぐ密集市街地の大規模火災/新潟・糸魚川大火の教訓から/早稲田大学理工学術院/長谷見雄二教授に聞く
2017年01月31日 3面
昨年12月に新潟県糸魚川市で発生した大規模火災を契機に、住宅や店舗などが密集した市街地における大火の危険性や消火活動の難しさが改めて論議の的になっている。糸魚川大火の教訓を踏まえた、今後の対策のあり方について、早稲田大学理工学術院の長谷見雄二教授(日本火災学会副会長)に聞いた。
『網入りガラス 窓屋根裏の不燃ボードなど 燃え広がらない対策急げ』
『地域の実情踏まえた消防戦略の構築を』
――市街地における大火には、どういう傾向があるのか。
長谷見雄二・早稲田大学教授 市街地の大火は、主に二つに大別される。一つ目は、地震で火事が多発するケースだ。建物の倒壊で消防車も出動しにくく、鎮火させるのが難しい。
二つ目は、強風による延焼で、今回の大火は、このケースに当てはまる。実際、1960年ごろまでは毎年のように大火が起きていた【表参照】が、近年は克服されたと全国の消防関係者の間では考えられていた。
――その理由は。
長谷見 一つは、消防力の近代化だ。機能が向上した消防車が全国の自治体に配備されたことや、防火水槽の整備が進んだことだ。もう一つは、建物の防火対策の向上だ。昔は、茅や板ぶきの民家が多く、飛び火などで簡単に類焼していたが、屋根用の亜鉛鉄板が開発され、50年代後半から国の補助金で一斉に鉄板にふき替えられるなど普及が進み、類焼しにくくなった。
――今回、なぜ被害が広がったのか。
長谷見 強風による飛び火だ。その点、普及が進んだとはいえ、建物の防火対策が不徹底だったと言わざるを得ない。被災した市街地は、建築基準法に基づく準防火地域に指定されており、民家を新築すると、屋根・外壁・窓に防火性能が必要になる。しかし、古い建物は十分な対策が進んでいない。こうした実態は、全国的に共通している。
――具体的にどのような対策が必要か。
長谷見 まずは、窓ガラスの強化だ。準防火地域でも、窓の防火性能の確保は立ち遅れている。普通ガラスの窓は、火災の熱で割れ落ちて飛び火が入りやすい。建物が立て込んだ場所の窓は、ガラスだけでも割れ落ちにくい網入りガラスに替えるなど、普及を急ぐべきだ。
今回の火元は商店街の店舗だったが、盲点となるのが、屋根裏の防火対策だ。商店街の建物は、一つの建物に複数世帯が入居し、屋根裏がつながっている「長屋造り」の建物が多い。外壁や室内の壁で火を防げても、屋根裏を通じて建物全体に火が回る恐れは高い。屋根裏も不燃ボードで世帯ごとに仕切るなど、隣の世帯に燃え広がらないようにする対策が欠かせない。
密集市街地の不燃化対策といっても、高齢化や人口減少によって建て替えは容易ではなくなっている。「火事をほかの建物に広げない」との視点で建物を改修するなど、地道な取り組みが求められる。
今回、空き地や駐車場が延焼拡大を食い止め、消火活動のスペースとしても活用されたが、今後の街づくりにおいて、こうしたオープンスペースは防災の観点で重要だ。消火の際に水が不足したが、こうした場所への防火水槽の設置も有効だろう。
――自治体の消防力不足を指摘する声もある。
長谷見 糸魚川市の消防責任者も消防力不足を認めていたが、人口を基に決められる消防車の台数は基準を満たしていた。しかし近年、自治体の合併が相次ぎ、一つの自治体の面積が広がっている上、過疎化も進む。地形や住宅の密集状況など地域の実情に合わせた消防戦略が不可欠である。
火災は初動対応が肝心で、消防団など担い手の存在は貴重だが、高齢化や人口減少によって年々減っている。しかし、消防職員を増やすことは自治体財政の面で難しい。消防装備の充実が進んでも担い手の縮小が進む状況は全国共通であり、かなり心配な状況だ。
――だからこそ、火災に対する住民の意識が問われるのではないか。
長谷見 その通りだ。現地に足を運んだが、火災現場から程なく近い地域の住民ですら、火災当時、あまり警戒していた様子がないことには驚いた。全国どこでも大火は起こり得る。
長年、消防組織に頼り切ってきた面は否めず、住民たちで街を守る意識が弱まっているのではないか。全国で大火が多かった半世紀前は、糸魚川でも「風が強い日は火災に注意を」「バケツに水をくんでおこう」といった注意喚起を住民同士で行っていたとも聞いた。
消防の近代化が大火減少の要因と指摘したが、住民の「火の用心」の姿勢が前提だ。自主防災の意識向上の機会にすると同時に、火災が消防力を超えないよう、迅速に対処するための地域防災戦略や火災感知通報システムの構築も重要だ。