急がれる受動喫煙防止策

9月7日の公明新聞1面に掲載された「受動喫煙防止策」に関する記事を掲載いたします。🚬

他人が吸うたばこの煙にさらされる受動喫煙により、日本では推計で年間約1万5000人が死亡している。一方、近年の五輪開催地では「たばこのない五輪」との方針のもと、公共的施設の屋内禁煙義務など罰則付きの受動喫煙防止策を実施。現行法では防止策が努力義務にとどまる日本でも、2020年の東京開催に向けて同様の対策が求められている。受動喫煙の被害や防止策のあり方について、前・国立がん研究センターたばこ政策支援部長の望月友美子氏に聞いた。

五輪開催地では必須

―受動喫煙による健康被害について。

望月 受動喫煙は、深刻な場合には死に至る「他者への危害」に他ならない。決して「迷惑だ」などという感情的な問題ではない。

健康被害では、肺がんや脳卒中との因果関係が確実だ。副鼻腔がん、小児の脳腫瘍や白血病なども因果関係が示唆されている。妊婦が煙を吸うと、血流を通じて胎児も有害物質の影響を受け、異常が生じる恐れがある。たばこの煙に「ここまでは安全」というレベルはない。少しでも吸えば、必ず何らかのリスク(危険性)が上がる。

―求められる対策は。

望月 受動喫煙は、あくまでも二次被害。最もリスクが高い喫煙者への対策が本丸だ。まずは職場も含めて、喫煙者、非喫煙者を問わず他者がいる公共の場では吸わないという社会的なルールを決める。そして、たばこの害を十分理解し、禁煙してもらうことだ。

海外では、メディアキャンペーンや無料の禁煙電話相談のほか、包装のデザイン性を排除した上で、たばこの害が分かる画像付きの警告を表示したり、たばこの店頭陳列を禁じている国もある。日本も世論を喚起し、対策を進めるべきだ。

なお、喫煙所の設置による分煙は、本人の喫煙、他者からの受動喫煙、壁などに付着した煙の成分が放出される「残留たばこ煙」という、喫煙者にも“三重苦”の状態をもたらすものだと指摘しておきたい。

―たばこ税の増税は。

望月 たばこの消費を確実に減らせる。しかも、たばこは10%の値上げで消費が2、3%減るくらいなので税収は増える。たばこ産業も増税時に便乗値上げを行うので収益が増える。まさに“一石三鳥”だ。

―東京五輪・パラリンピックに向けた受動喫煙防止策が求められている。

子ども守る視点で法整備を

望月 五輪は世論喚起のいい契機になる。ただ、日本は本来、世界保健機関(WHO)の「たばこ規制枠組み条約」に沿った受動喫煙防止法を10年には作っていなければならなかった。法整備は国の義務として取り組むべきだ。

その上で法律には、条約の趣旨も踏まえて「子どもたちを徹底的に守る」という視点を盛り込んではどうか。未成年や妊婦が出入りする場所は禁煙とするなど、次世代を守る観点から、ぜひ検討してほしい。

―たばこ対策が社会にもたらすメリットは。

望月 何よりも喫煙による死亡(年間約13万人)と受動喫煙による死亡を合わせた年間約14万5000人の命を救うことができる。また、たばこ税の税収は年約2兆円だが、喫煙による医療費などの経済的損失は5兆~7兆円と試算されている。喫煙者が減れば、この損失も減らせるだろう。

もちづき・ゆみこ
慶応義塾大学医学研究科博士課程修了(医学博士)。薬剤師、医師。世界保健機関(WHO)、厚生労働省などを経て今年3月末まで国立がん研究センターたばこ政策支援部長。